『道をひらく』(松下幸之助 著)を読む 12
運命を切り開くために:「生と死」
松下幸之助氏は「人生とは、一日一日が、いわば死への旅路である」と説いています。
この一見重い言葉の奥には、人生の本質を見極めるためのメッセージが込められているのです。
それは、すべての人が必ず「死」に向かって生きているという厳然たる事実を受け入れ、限りある人生をどう生きるべきかを問いかけています。
つまり「人は必ず死ぬ」「死のタイミングは誰にもわからない」「人生は一度きり」という、普遍的な真理を心に刻むことで初めて、人は真に豊かに生きることができるのです。
生きとし生けるものがその存在を生み出すと同時に、やがて消えていくのは宇宙の法則であり、私たちはそれを変えることができません。
しかし、この「死」という共通の行き先を共有する私たちが、争いや利己心に囚われることがいかに無意味なことかに気づくことも大切です。
「なぜ人は互いに分かち合い、協力し合いながら生きられないのか?」と松下氏は問いたいのだと思います。
その問いは、目先の欲望やプライドに振り回される私たちに、もっと広い視野で人生を捉える必要性を教えてくれます。
このように、氏は一人ひとりに「死生観」を持つことの大切さを促し、それによって「生」の尊さを真に理解しなさいと説いているのです。
この「生を生かす」姿勢こそが、死と向き合うことで得られる本当の生きがいであり、また「死を準備する」という意味だといえます。
ただ、それがどういう形で実現できるかについて、氏はあえて具体的な答えを与えず「宿命を直視しつつ、厳粛に、しかも楽しみながら考えること」をすすめています。
この静かで深遠な問いかけは、各自が自らの答えを見つけるべき人生のテーマとして受け止められるでしょう。
松下氏の言葉の中で「楽しみつつ」という表現がありますが、これには希望とともに生きる力が込められています。
宿命に向き合いながらも、明日を信じて前進する。
その穏やかで確かな心構えが、一日一日を貴重なものとし、私たちを「死」だけでなく「生」に対する感謝で満たしてくれるのです。