運命を切り開くために:「病を味わう」

松下幸之助氏の言葉「病を味わう」には、病の経験をも肯定的に受け入れる姿勢が表れています。

私も50代半ばに大きな病にかかり、一時は「これでこの世ともお別れか…」と絶望した経験があります。

しかし、周りの温かい支えにより、時間をかけながらも回復へと向かいました。

闘病中は、「病を味わう」などと悠長な心境にはなれませんでした。

入院中は歩くことさえ難しく、せめて自力で歩けるようになりたいと、切実な思いで祈り続けた日々でした。

ベッドから廊下を行き交う看護師やお見舞い客の姿を眺め、歩けることのありがたさに気づかされる毎日でした。

軽い病であれば「味わう」こともできるかもしれませんが、命を脅かす病でその境地に立つのは容易ではありません。

しかし、松下氏もまた、生まれつき体が弱く、幾度となく大病を経験してきたと聞きます。

だからこそ、「病を味わう」という言葉には特別な重みがあるのでしょう。

彼の強さと器の大きさを感じずにはいられません。

松下氏は、死に至る病以外は人生の試練であり、心の持ち方一つでその試練が癒しに変わり、回復の道も早まると説いています。

病を単なる不幸とせず、「自分を成長させるための試練」として捉えることで、より強く生きる力を得られるというのです。

まさに「病は気から」と言えるでしょう。

誰もが避けられない「病」という試練ですが、それを恐れるよりも、むしろ前向きに捉え、成長の糧とする気持ちを持つことで、心の安定と回復力を手に入れることができるのかもしれません。

病に苦しむとき、その辛さをただの苦痛と見るのではなく、「病を味わう」という松下氏の境地に思いを馳せ、前を向いて歩む糧としたいものです。

「『道をひらく』(松下幸之助 著)を読む 12」➩

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