『道をひらく』(松下幸之助 著)を読む 08
運命を切り開くために:「真剣勝負」
この章には、読者をハッとさせる深い洞察が詰まっています。
松下幸之助氏が語るのは、命がけの真剣勝負についてです。
剣道の竹刀での試合ではなく、負ければ命を落とすような、本物の剣を握っての勝負。
そうなると「勝つこともあれば負けることもある」と悠長に構えていられません。
一瞬の油断が命取りになる究極の場です。
私たちの日常生活では、このような真剣勝負の瞬間に直面することはほとんどありません。
しかし、松下幸之助氏は断言しています。
「人生は常に真剣勝負だ。だからこそ、どんな小さな事柄であっても、命をかけて真剣に取り組むべきだ」と。
その言葉の強さに、私は心を打たれました。
自分を振り返ってみて、果たして命がけで取り組んだことがあっただろうか?
皆さんはどうでしょうか。
会社経営に失敗し、倒産に追い込まれても、命を奪われることはありません。
どんなに大きな企業の経営者であっても、失敗は死を意味しないのです。
むしろ、個人保証を負っている中小企業の経営者の方が、より厳しい状況に直面することも多いでしょうが、命を賭けて責任を取ることはありません。
そんな時、松下幸之助氏の言葉が思い浮かびます。
正確でないかもしれませんが、ある社員が「精一杯努力しましたが、どうしてもできませんでした」と報告した際、彼はこう問いかけたそうです。
「君は血の小便をしたことがあるか?」と。
これは、結果が出ないことに対して「君は本当に生命がけで努力したのか?」と問う強烈なメッセージです。
幸之助氏自身、生命をかけるような努力を何度も経験したからこそ、この言葉が出たのでしょう。
「私は命を懸けてきた。君はどうする?」と、その背後には彼の燃える情熱が感じられます。
現代の「働き方改革」の潮流の中では、この考え方は一部からは理解されにくいかもしれません。
しかし、「もしこれが失敗したら命を失う」との覚悟で挑むことで、その人の人生にどれほど大きな変化が訪れるか。
それは計り知れないものになるはずです。
そしてこれは特別な大事の時だけでなく、「どんな小さな事にでも」、生命をかけるほどの覚悟で臨め――それが松下幸之助氏の教えです。
人生の真剣勝負に臨む覚悟を、今こそ問い直してみてはどうでしょうか。