みずから決断を下すときに:「カンを働かす」

修練が生む直感の価値
松下幸之助氏は「カンを働かせる」ことを決して否定的にとらえてはいません。
むしろ、一見すると非科学的に見える直感には、ときに科学をも凌駕する正確さと的確さがあると語っています。
そしてその力は、生まれつきの才能ではなく、人間の修練によって鍛えられるものだと考えていました。
実際、科学の世界でも多くの発明や発見は、研究者がふとした直感を得て、その感覚を裏づける理論を構築し、やがて実用化へと結びつけたことから生まれています。
つまり「科学」と「カン」は決して相反するものではなく、むしろ互いに補完し合う存在なのです。

経営者のカン
私自身も、経営の現場でその力を実感してきました。
毎月上がってくる月次決算のデータに目を通すとき、私は一つひとつの数字を細かくチェックするのではなく、まず全体をざっと眺めます。
すると、ふと「何かおかしい」と違和感を覚える箇所に目が止まるのです。
不思議なことに、その違和感を深掘りすると、実際にデータの誤りが見つかることが少なくありません。
なぜそこに気づけるのか、自分でも理屈では説明できません。
ただ「カンが働いた」としか言いようがないのです。

カンを育てる修練
もちろん、社長に就任したばかりの頃には、そんな感覚はまだ育っていませんでした。
当時は、ひたすら一生懸命に数字を追い、細かい誤りを探すしかありませんでした。
ところが経験を積み重ねるうちに、ミスが起こりやすい箇所や条件が、自然と見えてくるようになったのです。

豊富な実践がカンを研ぎ澄ます
さらに、自ら資金を動かし、日々の経済活動を実際に経験しているからこそ、決算データを単なる数字ではなく「経営の全体像」として捉えられるようになったのだと思います。
つまり、直感とは単なる「思いつき」ではなく、修練の積み重ねと実体験の蓄積が生み出す“感覚”なのです。
経営に限らず、どんな仕事であれ、地道に経験を重ねることで必ず「カン」は磨かれていきます。
そして、その直感を恐れずに活かすことこそ、ビジネスの現場で大きな武器になるのです。

⇦「『道をひらく』(松下幸之助著)を読む43」


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