『道をひらく』(松下幸之助 著) を読む 04
運命を切り開くために:「志を立てよう」
松下幸之助氏は「志(こころざし)」について、「命を懸けるほどの思いで志を立てよ」と語っています。
また、「志があるところに道は必ずひらける」とし、道がひらけないとすれば、その志が弱いからだとも述べています。
では、私自身の人生を振り返ったとき、そのように強烈な志を立てたことがあったでしょうか。
正直に言うと、私は昔から「志」を立てるどころか、目標すらも定めるのが苦手でした。
目標を掲げても、しばらくすると他のことに気を取られ、いつの間にかその目標自体を忘れてしまう。
そんなことの繰り返しでした。
「目標を定め、それに向かって努力する」という生き方は、どうにも私には合わなかったのです。
しかし、時が経ち、私が勤めていた会社の社長を引き受けることになったとき、それまでのような気ままな生き方では通用しないという現実に直面しました。
当時の会社は売上が低迷し、抱えた多額の借金により、毎月の資金繰りに苦しんでいました。
しかも、その借金は私自身が連帯保証しており、夜も眠れないほどの不安に襲われました。
借金を理由に命を絶つ人がいるのも理解できるほど、金銭問題が人にどれほどの苦しみをもたらすかを痛感したのです。
そこで私は、「借金を減らす」という命を懸けた目標を立てました。
まさに生き残りをかけた戦いでした。
そして、血の滲むような努力を重ねた結果、ついに全額返済を成し遂げ、会社は無借金経営へと移行しました。
借金の重圧から解放されると、私は本来の経営に集中できるようになりました。
また、次期社長が私のように借金で苦労しなくて済むという結果ももたらされたのです。
松下幸之助氏は「志を立てよう。自分のためにも、他人のためにも、そしてお互いの国、日本のためにも」と述べています。
私が取り組んだ借金返済という目標は、自分と社員、さらには次期社長という限られた範囲のものに過ぎませんでした。
しかし、もし私が、幸之助氏が言われるように、もっと大きな志を立てていたなら、会社にさらに大きな発展がもたらされていたのかもしれません。