【仕事をより向上させるために】:「旗を見る」

■ 仕事は「終わった」で終わってはいけない
仕事には、ひとつの落とし穴がある。
それは、「やり終えたこと」で安心してしまうことだ。
資料を提出した、商談を終えた、商品を納品した、会議を実施した、そこで区切りをつけて、すぐ次の仕事へ向かってしまう。
忙しい現代では、これはごく自然な流れかもしれない。
だが、松下幸之助 は、それでは不十分だと説く。
本当に大切なのは、その仕事がどういう結果を生んだのかを確かめることである。

■ 射撃場の「旗」が教えること
松下氏はこれを、射撃場のたとえで語っている。
射手が的に向かって弾を放つ。
そのあと、係員が旗を振って「当たったか、外れたか」を知らせる。
射手はその旗を見て、自分の狙いが正しかったかを確認し、そして次の一発に生かす。
もし旗を見ずに、ただ撃ち続けたらどうなるだろう。
どれだけ弾を重ねても、腕前は上がらない。
仕事も同じである。
結果を確認せず、ただ数をこなしても、仕事の質は磨かれない。

■ 成長する人は、必ず「結果」を見る
仕事の質を高める人には、共通した習慣がある。
それは、終えた仕事を振り返ることだ。
狙い通りだったか、相手に価値を届けられたか、どこに不足があったか、もっとよい方法はなかったか。
この問いを持つ人だけが、次の仕事をより良いものにできる。
成長とは、経験を積むことではない。
経験を検証することによって、初めて生まれる。

■ 数字という「見える旗」
仕事の結果には、目に見える旗がある。
売上、利益、成約率、顧客数、納期達成率、こうした数字は、仕事の成否を比較的わかりやすく示してくれる。
数字が伸びていれば、一定の成果が出ているし、数字が落ちていれば、何かに問題がある。
これは誰にでも見える旗だが、松下氏は、それ以上に大切なものがあると言う。

■ 本当に重要なのは「見えない旗」
それが、目に見えない旗である。
たとえば、お客様は笑顔だったが、どこか言葉が少なかった、商談は成立したが、相手の表情にわずかな迷いがあった、部下は「わかりました」と答えたが、本当に腹落ちしていたかはわからない。
こうした微細な違和感、数字には表れないが、確かに存在する兆候、これこそが、仕事の質を左右する重要なサインである。
そして、この旗を見抜けるかどうかで、仕事人としての差が生まれる。

■ 忙しい人ほど、旗を見失う
実際には、これがなかなか難しい。
忙しいと、仕事は次から次へと押し寄せる。
ひとつ終えれば、もう次が待っている。
すると、振り返る余裕がなくなる。
私自身、経営の現場で何度も経験してきた。
その場では「無事に終わった」と思っていた仕事が、後になってお客様から改善の指摘を受けたり、思わぬ不具合が見つかったりしたことがある。
あのとき、あと10分でも振り返っていれば──そう思ったことは一度や二度ではない。

■ 見えない旗は、自ら確かめにいく
目に見えない旗は、待っていても見えない。
こちらから確かめにいかなければならない。
たとえば、「今回の進め方はいかがでしたか」「何か気になる点はありませんでしたか」「率直なご意見をいただけますか」こうした一言が、見えない旗を可視化してくれる。
相手は遠慮して、言わないことが多い。
だからこそ、こちらから尋ねる。
この謙虚さが、仕事を磨く。

■ 「確認する人」が信頼を積み上げる
確認とは、単なるチェックではない。
それは、相手に対する誠実さの表れである。
「やったから終わり」ではなく、「本当にお役に立てたか」、そこまで気にかける人は、必ず信頼される。
信頼は、派手な成果ではなく、こうした丁寧な確認の積み重ねから生まれる。

■ 仕事の質は、振り返りで決まる
仕事を終えたら、一度立ち止まる、そして、旗を見る。
数字という旗、相手の反応という旗、自分の違和感という旗、それらを丁寧に読み取る。
この習慣が、仕事を育てる。
松下氏の教えは、非常にシンプルだが、だが、これを徹底できる人は少ない。
だからこそ、大きな差になる。
仕事とは、終わらせることではない。
確かめ、学び、次に生かしてこそ、本当に完了する。
その積み重ねが、やがて揺るぎない仕事力となっていくのである。

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