【事業をよりよく伸ばすために】:「ノレンわけ」

■社員であっても「主人公」であれ

松下幸之助氏は、たとえ一社員であっても、自主独立の心構えを失ってはならないと説いています。
これは、「独立して会社を興せ」という意味ではありません。
組織に属していても、自分の仕事に対しては「自分が主人公である」という意識を持て、ということです。
ただ指示されたことをこなすだけの受け身の姿勢では、本当の成長はありません。
自分の仕事を、自分の責任でやり抜く、成果に責任を持ち、工夫し、改善し、価値を生み出す、その覚悟を持ったとき、社員は単なる組織の歯車ではなく、一人の経営者的な存在へと変わります。
松下氏は、まさにその気概を求めているのです。

■「ノレンわけ」の精神を忘れてはならない
昔の商家には「ノレンわけ」という制度がありました。
店で長年修業を積み、信頼と実力を認められた番頭が、ノレンを分けてもらって独立する。
自ら看板を背負い、一国一城の主として商売を始めるのです。
そこには、強烈な責任感と誇りがありました。
自分の名前で勝負する、失敗も成功もすべて自分が引き受ける、この覚悟が、人を鍛え、商売人として成長させたのです。
現代では、大企業化や分業化が進み、こうした「ノレンわけ」の機会は少なくなりました。
多くの人が組織の中でキャリアを築く時代です。
しかし、だからこそ失ってはならない精神があります。
それは、「自分は独立した一人の商売人である」という意識です。
形は変わっても、この精神だけは決して古びません。

■組織に属していても依存してはならない
大きな組織にいると、どうしても安心感が生まれます。
会社がある、肩書がある、看板がある、その環境に守られているうちに、自分の力で立っている感覚を失ってしまうことがあります。
これは極めて危険です。
組織への帰属は必要です。
しかし、依存は違います。
依存する人は、「会社が何とかしてくれる」と考えますが、自立した人は、「自分が会社を支える」と考えます。
この差は決定的です。
環境が変化し、組織が揺らいだとき、依存していた人は立ちすくみます。
一方で、自主独立の気概を持った人は、どこにいても自ら道を切り拓けます。
これからの時代に求められるのは、間違いなく後者です。

■プロフェッショナルは自分の名前で勝負する
私自身、わが社で社員研修を行う際に最も重視しているのも、この自主独立の精神です。
もちろん、社員全員に「独立起業しなさい」と言っているわけではありません。
そうではなく、一人ひとりがプロフェッショナルとして、自分の名前で仕事が取れる人間になってほしいと願っています。
「あの人に任せたい」「あの人だからお願いしたい」、そう言われる存在になることです。
それは肩書や会社のブランドによって得られる信頼ではありません。
本人の力量と責任感によって築かれる信頼です。
本物のプロは、会社の看板に頼りません。
自らの実力で信用を勝ち取ります。

■支え合う組織は、自立した個の集まりである
強い組織とは、もたれ合う組織ではありません、支え合う組織です。
そして支え合いは、一人ひとりが自立していてこそ成立します。
自分で立てない人同士が集まれば、それは単なる依存の集合体であり、誰かが崩れれば、全体が傾きます。
しかし、自立した人間が集まれば違います。
それぞれが自分の責任を果たしながら、必要なときに互いを支える、そこには健全な連携が生まれます。
そうした組織は、リーダーが変わっても揺るぎません。
なぜなら、組織を支えているのが一部の人間ではなく、全員だからです。

■これからの時代に必要なのは自主独立の気概である
これからの社会は、ますます変化が激しくなります。
終身雇用や年功序列に守られる時代は、すでに過去のものになりつつあります。
こうした時代を生き抜くために必要なのは、組織への依存ではありません。
「自分の責任で立つ」という覚悟です。
どこに所属していようと、自分の価値を磨き、自分の力で成果を出す。
その気概を持つ人だけが、変化の時代をしなやかに生き抜いていけます。
松下幸之助氏のいう「ノレンわけ」とは、単なる独立開業の話ではありません。
それは、一人ひとりが精神的に独立し、自らの仕事を背負う覚悟を持て、という教えです。
この精神こそが、個人を強くし、組織を強くし、ひいては社会全体を強くしていくのです。

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