『道をひらく』(松下幸之助著)を読む84 【事業をよりよく伸ばすために】:「手を合わす」
【事業をよりよく伸ばすために】:「手を合わす」
■事業繁栄の原点は、お客様への感謝である
松下幸之助氏は、うどん屋を例に挙げながら、事業発展の本質を語っています。
同じ価格で、同じような商品を提供していても、繁盛する店とそうでない店があります。
その違いはどこにあるのか。
それは、お客様をどれだけ大切にしているか、この一点に尽きます。
真心を込めて接し、親切を尽くし、相手を思いやる店には、人が自然と集まります。
反対に、礼を欠き、お客様をぞんざいに扱う店からは、人の足は確実に遠のいていきます。
商売の成否は、技術や価格以前に、お客様への姿勢によって決まるのです。
■「手を合わす」ほどの感謝が、商売を育てる
松下氏は、お客様が店を出ていく後ろ姿に、思わず手を合わせたくなるほどの感謝の気持ちを持て、と説いています。
これは単なる比喩ではありません。
「ありがとうございました」という言葉を口にするだけでは足りない、心の底から、「来てくださって本当にありがたい」と感じること、それほどの感謝があってはじめて、本物の商売が生まれるということです。
この“手を合わす心”こそが、事業を発展させる土台になります。
■感謝の心は、品質を磨く
お客様を本当に大切に思うなら、「これで十分だ」とは決して思わなくなります。
もっと美味しくできないか、もっと早く提供できないか、もっと心地よく過ごしていただけないか、自然とそう考えるようになります。
うどんなら、だしの取り方、麺のコシ、温度、量、提供のタイミングにまで気を配るようになるでしょう。
つまり、商品やサービスの質は、感謝の深さに比例するのです。
最初から優れた商品があるから繁盛するのではありません。
お客様を大切にする心があるからこそ、工夫が生まれ、改善が進み、結果として優れた商品へと育っていくのです。
■「待たせない」ことも誠意である
松下氏は、お客様を待たせないことの重要性にも触れています。
どれほど味がよく、接客が丁寧でも、必要以上に待たせてしまえば、それはお客様を大切にしているとは言えません。
相手の時間を尊重することは、最大級の礼儀です。
お客様の立場に立てば、「早く、気持ちよく、満足していただく」ことがいかに重要かは明らかです。
親切であること、美味しいこと、早いこと、この三つが揃って、初めて真の顧客満足が実現します。
■どんな仕事にも通じる商売の真理
この教えは、うどん屋に限った話ではありません。
すべての事業に通じる普遍の原則です。
私自身、企業経営に携わる中で、取引先の担当者の方々に対して、そこまで深く感謝の念を抱けていただろうかと振り返ることがあります。
担当者は単なる窓口ではありません。
私どもを信頼し、仕事を託してくださる大切なお客様です。
その方の立場や責任、期待、不安にまで思いを巡らせ、誠意を尽くしていただろうか。
率直に言えば、まだまだ至らぬ点が多かったと感じます。
■「手を合わす心」が、未来を拓く
これからの時代、事業を伸ばす企業に共通するのは、顧客への深い敬意を持っていることです。
ただ売るのではない。ただ契約を取るのでもない、「選んでくださったこと」への感謝を忘れず、その期待を超える価値を返し続けること、その積み重ねが信頼を生み、信頼が繁栄をつくります。
松下幸之助氏の言う「手を合わす」とは、商売人としての究極の姿勢です。
私たちもまた、お客様の後ろ姿に心の中でそっと手を合わせる、その謙虚な気持ちを忘れず、日々の仕事に向き合っていきたいものです。