『道をひらく』(松下幸之助著)を読む86 【事業をよりよく伸ばすために】:「敵に教えられる」
【事業をよりよく伸ばすために】:「敵に教えられる」
■競争相手は、単なる敵ではない
松下幸之助氏は、競争相手に対する見方について、非常に示唆に富んだ教えを残しています。
事業における「敵」とは、いうまでもなく競合他社です。
同じ市場で顧客を奪い合い、ときにはこちらの計画を阻み、売上を脅かす存在です。
だからこそ、つい「倒すべき相手」「打ち負かすべき存在」と考えてしまいがちです。
しかし松下氏は、そうした単純な対立の発想を戒めます。
競争相手は、単なる敵ではない、むしろ、自社を成長させてくれる存在だというのです。
これは事業に携わる者にとって、極めて重要な視点です。
■競争があるから、知恵が生まれる
競争相手が新しい商品を出した、新しいサービスを始めた、革新的な仕組みを導入した、そうした動きを目にしたとき、私たちは考えます。
「どう対抗するか」「どうすればもっとよい価値を提供できるか」「自社に足りないものは何か」、この問いが、知恵を生み、工夫を促し、改善を引き起こします。
つまり、私たちは自分で考えているつもりでも、実は競争相手によって“考えさせられている”のです。
競争相手は、私たちに課題を与え、進歩のきっかけを与えてくれる教師でもあります。
まさに「敵に教えられる」ということなのです。
■健全な競争は、業界全体を進化させる
こちらが改善すれば、相手もさらに改善する、相手が進歩すれば、こちらもまた工夫を重ねる、この繰り返しによって、業界全体の水準は確実に高まっていきます。
そして、その恩恵を最も受けるのは誰か。
それは企業ではありません、お客様です。
よりよい商品、より高い品質、より優れたサービス、健全な競争があるからこそ、顧客はより大きな価値を享受できるようになります。
その結果、市場全体が活性化し、業界が発展し、ひいては社会全体の豊かさへとつながっていくのです。
競争とは、本来そのような建設的な力を持っています。
■倒す発想ではなく、学ぶ発想を持つ
競争相手に対して必要なのは、憎しみではありません。
必要なのは、冷静に観察し、学ぶ姿勢です。
相手の優れた点を認める、そこから学ぶ、そして、自社ならではの形でさらに磨き上げる、この姿勢がある企業だけが、本当に強くなれます。
もちろん、なれ合う必要はありません。
競争は競争として、真剣に向き合うべきです。
しかしその競争は、相手を潰すためのものではなく、互いを高め合うためのものであるべきです。
これこそが、松下氏のいう「対立しつつ調和する」という考え方です。
■共存共栄こそ、自然の理である
松下幸之助氏は、こうした競争のあり方を「共存の理」として語っています。
互いに競いながら、互いに学び、互いに進歩する、これは単なる理想論ではありません。
市場が健全に発展するための自然な法則です。
一社だけが勝てばよいという発想では、長続きしません。
業界全体が高まり、その中でそれぞれが切磋琢磨するからこそ、持続的な発展が可能になるのです。
この視点は、実に壮大でありながら、極めて現実的です。
■競争相手は、自社を磨く鏡である
私たちは日々、競争相手をどう上回るかを考えますが、それ自体は悪いことではありません。
しかし、その視点が「相手を打ち負かすこと」だけに向かうと、発想は貧しくなります。
大切なのは、「相手から何を学べるか」を考えることです。
競争相手は、自社の課題を映し出す鏡です。
そこから学び、自らを磨き続ける企業だけが、本当に成長していきます。
松下幸之助氏の教えは明快です。
敵は、倒すためだけに存在するのではない、自分を成長させるために存在している。
そう考えたとき、競争は苦しいものではなく、進歩への大きな力になります。
私たちも、競争相手に学ぶ謙虚さを持ち、切磋琢磨しながら前進していきたいものです。