【事業をよりよく伸ばすために】:「あぶない話」

■成功が人をあやまらせる

松下幸之助氏がここで「危ない話」として戒めているのは、成功が生む慢心です。
人は、ひとたび成果を上げると自信を持ちます。
それ自体は悪いことではありません。
むしろ、仕事を前へ進めるうえで自信は必要です。
問題は、その自信が過信へと変わるときです。
「俺に任せておけば間違いない」「このやり方なら絶対に成功する」、そうした思い込みが生まれた瞬間、人は謙虚さを失います。
そして他人の意見に耳を貸さなくなり、自分の考えだけを絶対視するようになる。
松下氏は、これこそ最も危険な状態だと警鐘を鳴らしています。
成功体験が人を育てることはあります。
しかし同時に、人を鈍らせることもあるのです。

■自信と過信はまったく別物である
何かに挑戦するとき、自信を持つことは大切です。
自信なくして、大きな仕事は成し遂げられません。
しかし、その自信はあくまで「仮説」にすぎません。
「この方法ならうまくいく可能性が高い」「十分に準備したから挑戦してみよう」、その程度の自信でよいのです。
絶対に成功する保証など、この世にはありません。
どれだけ綿密に計画しても、想定外は起こります。
だからこそ、本当に強い人ほど慎重です。
自信を持ちながらも、「ひょっとすると失敗するかもしれない」と考え、備えを怠らない、この謙虚さが、事業を守り、次の成長を生むのです。

■失敗は人を磨く
松下氏は、時には「三回に一回くらい失敗したほうがよい」とまで語っています。
失敗は苦しいものです。
しかし、その苦しさが人から慢心を削ぎ落とし、謙虚さを取り戻させます。
逆に、成功が続くと危険です。
人は知らぬ間に「自分は特別だ」と錯覚しやすくなるからです。
失敗は、自分を客観視させてくれる貴重な機会です。
そこから学び、修正し、また挑む。その繰り返しが、人を本物へと育てます。
失敗を恐れる必要はありません。
恐れるべきは、成功によって学ぶ姿勢を失うことです。

■慎重さが事業を支える
私自身、経営に携わってきて振り返ると、もともと大きな自信を持って始めたわけではありません。
むしろ「本当にこれでよいのだろうか」と、いつも半信半疑でした。
手探りの連続であり、おっかなびっくり進んできたというのが正直なところです。
けれども、その慎重さが結果として大きな失敗を防いでくれたのだと思います。
自分を過信しなかったからこそ、人の意見を聞けた、立ち止まって考えることができた、修正する柔軟さを持てたと。
経営において、勢いは必要です。
しかし、それ以上に必要なのは冷静さです。

■成功したときこそ、自らを戒める
事業がうまくいったとき、人はつい浮かれます。
ですが、その瞬間こそ最も注意しなければなりません。
「これは実力だ」と思った瞬間から、危うさが始まります。
うまくいった背景には、時流や周囲の支え、偶然の要素も必ずあります。
それを忘れず、成功要因を冷静に分析し、次にどう活かすかを考えることが大切です。
成功は誇るものではなく、検証するものです。
そして次の一歩を、また謙虚に踏み出す、その積み重ねだけが、持続的な成長を可能にします。
松下幸之助氏のいう「あぶない話」とは、他人の失敗談ではありません。
誰もが陥りうる、自分自身の心の落とし穴です。
だからこそ私たちは、うまくいったときほど襟を正し、静かに自らを省みる習慣を持たなければならないのです。

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