『道をひらく』(松下幸之助 著)を読む 18
日々を新鮮な心で迎えるために:「雨が降れば」
「雨が降れば傘をさす」という言葉は、誰もが聞いたことのあるシンプルな表現です。
しかし、松下幸之助氏の教えに触れると、その意味が一層深く、実践的なものとして心に響いてきます。
かつての私は、この言葉を表面的に理解していました。
世の中で何が起きても自然体で対処すればよい、つまり雨が降ったら当たり前のように傘をさせばいい、そんな風に受け取っていたのです。
しかし、松下氏の示す「雨が降れば」という言葉には、もっと重要な意味が隠されていました。
それは、「雨が降ることもあるのだから、あらかじめ傘を用意しておきなさい」ということなのです。
人生には、思いがけない災難やアクシデントが突然降りかかります。
そのたびに右往左往していては、事態に飲み込まれ、身動きが取れなくなってしまうでしょう。
だからこそ、平穏な時ほど油断せず、万が一に備えた対応策を用意しておくことが大切だと松下氏は説いています。
『経営者にとっての「傘」とは?』
この教えは、特に経営者にとって重い意味を持ちます。私自身も、経営の現場で幾度となく「傘の大切さ」を痛感しました。
かつて資金繰りに苦しんでいた頃、銀行からの融資がようやく振り込まれた時の安堵感は、今でも忘れられません。
その瞬間、まるで全ての問題が解決したかのような錯覚に陥ります。
しかし、現実はそう甘くありません。
その融資は「借金」であり、毎月利息をつけて返済していかなくてはならないのです。
たとえ一円も使わなくても、口座からは容赦なく引き落とされていく。
にもかかわらず、いざ入金があると、まるで自分のお金であるかのように錯覚し、安心してしまう。
その安心こそが「油断」なのです。
本来ならば、その瞬間に「よし、この時間の猶予を使って事業を立て直そう」と気を引き締め直すべきでした。
しかし、そうした小さな油断をいくつも重ねながらも、何とか借金をゼロにできたのは、ただただ幸運だったと言わざるを得ません。
『「傘」を複数持つという発想!』
雨が降った時に「すぐに傘をさせること」。これが、危機管理の基本です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
大切なのは、一本の傘だけでなく、余分な傘を何本も用意しておくこと。
そして、時には他の人に貸してあげられる「傘」まで持っている余裕が、真の強さなのです。
この「傘」とは、具体的には何でしょうか。
経営者にとっては、資金の余裕、強固なビジネスモデル、信頼できるパートナー、そして、危機に備える知恵や行動力がその「傘」にあたります。
そして、ビジネスに限らず人生においても、心の余裕や人間関係のつながりが、あなたを支える「傘」になるのです。
『あなたは何本の「傘」を持っていますか?』
今のあなたの手元には、いくつの「傘」があるでしょうか。突然の雨に備えているでしょうか。
そして、誰かが困った時、あなたはその人に傘を差し出すことができるでしょうか。
人生やビジネスは予測不可能なものです。
しかし、あらかじめ備えをし、必要な時に適切な行動をとることで、大きな災難も最小限に抑えることができます。
油断をせず、しっかりと「傘」を用意すること。
さらに言えば、余分な傘を持つ余裕をつくること。
それこそが、人生を安定させ、成功への道を切り拓くための確かな一歩ではないでしょうか。