【自信を失ったときに】:「一陽来復」

■ 人生に、いつも春は続かない
人生がいつも順風満帆なら、それに越したことはない。
穏やかに、楽しく、何の憂いもなく歩めるなら、誰だってそう願うだろう。
だが現実は、そうはいかない。
思いがけない悲しみ、突然の失敗、どうにもならない窮地、ときには、「もうこれ以上は無理だ」と思うような場面に立たされることもある。
人生とは、そういうものなのだと思う。

■ 苦しみの中でしか学べないことがある
けれども、松下幸之助 は、そこにこそ人生の深みがあると説く。
苦しみの中に置かれてはじめて、人は人生の重みを知る。
つらさを経験してはじめて、人の痛みに気づける。
窮地に立たされてはじめて、自分の弱さと向き合える。
これは頭で理解するだけでは足りない。
松下氏は、「塩の辛さは、舐めてみてはじめてわかる」という趣旨のことを語っている。
まさにその通りだと思う。
どれほど本を読み、人の話を聞いても、本当の意味での学びは、身をもって体験してこそ得られる。

■ 辛さを避けず、受け止める
私たちは苦しみに出会うと、できるだけ早く逃れたいと思う。
それは自然なことだ。
だが、その苦しみをただ拒み、避けようとするだけでは、そこから何も得られない。
むしろ大切なのは、その現実を真正面から受け止めることだ。
なぜ、これが起きたのか、この経験は何を教えているのか、ここから何を学べるのか、辛さをじっくり味わう。
もちろん、好き好んで苦しめという話ではない。
だが、避けられない苦難であるなら、そこから学び尽くす。
その姿勢が、やがて人生を大きく変えていく。

■ 私が病から学んだこと
私自身、かつて命の危険を感じるほどの大病を患った。
まさに死を意識する経験だった。
あのとき願ったのは、大それたことではなかった。
「もう贅沢は言わない。せめて普通に歩けるところまで回復したい」ただ、それだけだった。
病床で私は、自分の生き方を見つめ直した。
もし回復できたなら、これまでのような無理はしない。
身体をいたわり、節制し、二度と同じ過ちを繰り返さない、そう心に誓った。
そして幸いにも、私は回復することができた。
あの体験は、たしかに苦しかった。
だが、その苦しみがあったからこそ、その後の人生は大きく変わった。

■ 禍を転じて福となす
あの経験を振り返るたびに思う。
まさに禍を転じて福となすとはこのことだと。
苦難そのものは歓迎できない。
だが、その苦難をどう受け止めるかによって、それは人生を壊す出来事にも、人生を深める転機にもなる。
その違いを生むのが、向き合い方である。

■ 一陽来復――必ず春は来る
「一陽来復」という言葉がある。
厳しい冬が極まったその先に、一筋の陽光が差し込み、再び春が訪れる。
どれほど暗い状況でも、そこには必ず再生の兆しがある。
大切なのは、その光を信じることだ。
そして、ただ待つのではなく、その時に備えて自分を整えることだろう。
自信を失ったときこそ思い出したい。
いま味わっている苦しみは、人生を終わらせるためのものではない。
それは、次の春を迎えるための準備である。
暗闇の中にも、必ず光は差し込む。

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