【生きがいのある人生のために】:「まねる」

■学びは「まねる」ことから始まる
松下幸之助氏は、人が何かを身につける第一歩は「まねること」だと説いています。
たしかに、子どもが言葉を覚え、歩き方を学び、社会の中で成長していく過程を見ても、それは明らかです。
人はまず誰かの姿を見て、それをまねることで学び始めます。
仕事でも同じです。
優れた先輩のやり方を観察し、その所作や考え方を取り入れることは、成長への近道です。
しかし松下氏は、そこで大切な一線を示しています。
「まねること」と「同じ人間になろうとすること」は、まったく別だということです。

■人は、人にはなれない
松下氏は、瓜のつるには茄子はならず、柿の種をまけば柿の木が育つ、と語っています。
これは極めて本質的な教えです。
どれほど立派な人物を手本にしても、その人そのものになることはできません。
たとえば徳川家康のような歴史的大人物がいたとして、その生き方をそのまま模倣しても、同じ結果は決して得られません。
なぜなら、その道は家康という人間だからこそ歩めた道だからです。
仮に家康以上の能力を持つ人であっても、ただ表面的にまねるだけでは、かえって道を誤るでしょう。
人にはそれぞれ、生まれ持った個性があるからです。

■大切なのは、自分を土台にすること
兄弟であっても、一人ひとり性格も考え方も違います。
同じ家庭で育っても、同じ人間にはなりません。
それほどまでに、人の個性は固有のものです。
だからこそ、学びにおいて最も大切なのは、「自分は自分である」という確かな自覚です。
誰かを手本にすることは大いに結構です。
優れた人から学ぶことは、成長の大きな糧になります。
しかし、その学びは、自分という土台の上に積み上げなければ意味がありません。
土台がぐらついたままでは、いくらまねても表面的なものまねで終わってしまいます。
まず自分の個性を知ること、自分の強みも弱みも受け入れること、そのうえで他者から学ぶ、この順序を間違えてはならないのです。

■人はそれぞれ、受け取り方が違う
私自身、長年多くの社員と接してきて、このことを痛感しています。
同じ話を同じ場で伝えても、受け取り方は一人ひとりまったく違います。
朝礼や会議で全員に同じ言葉を投げかけても、深く理解する人もいれば、十分に伝わらない人もいます。
それは能力の差ではありません、個性の違いです。
だからこそ、本当に大切なことを伝えるときは、一対一で向き合い、相手の表情や反応を見ながら、理解の度合いを確かめつつ伝える必要があります。
人を育てるとは、型にはめることではありません。
その人固有の個性を見極め、それをどう伸ばすかを考えることです。

■個性を生かしてこそ、成果は生まれる
私が会社経営の中で大切にしてきたのも、まさにこの点です。
社員一人ひとりの個性をよく見て、その人に合った仕事の進め方や役割を考える、それによってこそ、その人の力は最大限に発揮されます。
逆に、個性に合わないやり方を無理に押しつければ、成果は上がりませんし、会社にとっても損失ですし、何より本人にとって不幸なことです。
人を育てるとは、誰かのコピーをつくることではありません。
その人だけの持ち味を磨き、花開かせることなのです。

■まねた先に、自分の道を築け
松下幸之助氏が伝えたかったのは、学びは「まねる」ことから始まるが、そこで終わってはならないということです。
まねることは入口にすぎません。
その先で、自分なりに咀嚼し、自分の個性に合わせて昇華させてこそ、本当の学びになります。
誰かになる必要はありません。
自分は自分として立ちながら、優れた人から学び、自分の道を築いていく、それこそが、真の成長であり、自主独立への道なのです。

『道をひらく』(松下幸之助著)を読む117➩

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