『道をひらく』(松下幸之助著)を読む115 【生きがいのある人生のために】:「知恵の幅」
【生きがいのある人生のために】:「知恵の幅」
■人と人との差は、思うほど大きくない
松下幸之助氏は、世の中には賢い人もいれば愚かな人もいるけれど、その差は私たちが思うほど大きなものではない、と説いています。
人間である以上、誰も神仏のような完全な知恵を持っているわけではありません。
かといって、極端に劣った存在でもありません。
私たちは皆、大自然の恵みの中で生かされ、ほぼ同じ土台の上に立っているのです。
確かに、「この人はすごい」と圧倒されることがあります。
自分とは雲泥の差があるように感じることもあるでしょう。
しかし松下氏は、その差は実はごくわずかにすぎないと言います。
大自然という大きな視点から見れば、私たちの知恵の差など、ほんの小さな幅の違いでしかないのです。
■小さな差にとらわれるな
私たちはつい、人と自分を比べてしまいます。
「あの人は優秀だ」「自分には無理だ」「あの人は特別だ」、そう思い込んで、自ら可能性を閉ざしてしまうことがあります。
しかし、松下氏が伝えたいのは、そうした比較に意味はないということです。
賢さを誇る必要もなければ、劣っていると悲観する必要もありません。
そんな小さな差に心を奪われるよりも、自分に与えられた人生を静かに、着実に歩むことのほうがはるかに大切なのです。
人生を切り拓くのは、能力差ではありません。
目の前の役割にどう向き合うか、その姿勢です。
■私自身が気づいた「差」の正体
私自身、かつては会社の社長という存在を、まったく別世界の人だと思っていました。
平社員だった頃の私にとって、社長というのは特別な才能を持った、選ばれた人間が務めるものだと信じて疑いませんでした。
到底、自分にできるはずがないと思っていたのです。
ところが、年月を経て、さまざまな経験を重ね、結果として自分がその立場を担うことになりました。
そして実際にやってみると、もちろん苦労はありましたが、「自分にもできた」という実感がありました。
あの頃、雲の上の存在に見えていたものは、実は自分が勝手につくり上げていた幻想だったのです。
未知のものに対して、人は過大な壁を感じます。
しかし、その壁の多くは実体のない思い込みにすぎません。
■違いを生むのは、才能ではなく向き合い方
振り返ってみれば、私と同僚たちとの間に、決定的な能力差があったとは思えません。
もし別の誰かがその役割を担っていたとしても、きっと同じようにやり遂げていたでしょう。
違いがあるとすれば、それは生まれ持った才能ではなく、与えられた役割にどう向き合ったか、その姿勢だけです。
目の前の仕事から逃げず、淡々と取り組み、必要な経験を積み重ねていく。
それが結果として、人を育て、役割を果たせる力を養っていくのです。
■心静かに、自分の道を歩め
松下幸之助氏は、知恵のわずかな差にとらわれず、自らに与えられた人生を心静かに歩みなさいと語っています。
これは実に深い教えです。
人と比べて焦る必要はありません。
誰かを見上げて萎縮する必要も、自分を過大評価する必要もないのです。
大切なのは、自分の持ち場で、自分のペースで、誠実に歩み続けること。
そうして歩みを重ねていけば、やがて誰もが、自分なりの力を十分に発揮できるようになります。
小さな差に惑わされてはいけません。
人生を決めるのは才能の差ではなく、自分の道をどれだけ静かに、そして着実に歩み続けられるか、その一点に尽きるのです。