『道をひらく』(松下幸之助著)を読む54
困難にぶつかったときに:「世間というもの」
松下幸之助氏は、「世間」という存在についてこう語っている。
「世間とは、厳しくもあり、また暖かくもあるものだ」
この一言に、経営にも人生にも通じる深い真理がある。
世間は時に冷たく、理不尽な評価を下す。
しかし一方で、思いがけない温かさで人を支え、励ましてくれる。
つまり、世間とは「こういうものだ」と一言で言い切れるような存在ではない。
それは、目に見えない“生き物”のように常に動き、変化している。
「世間」を味方につけることの難しさ
自信をもって発売した新商品が、まったく売れない。
「これは絶対にヒットする」と信じた戦略が、世間の反応ひとつで水泡に帰すこともある。
市場調査を行い、顧客の声を集め、万全を期したつもりでも、結果は必ずしも期待どおりにはならない。
なぜか。
それは「世間」そのものが、時代や空気、価値観とともに絶えず姿を変えているからだ。
どんなに優れた経営者であっても、世間を完全に読み切ることはできない。
「世間」には謙虚に、希望を失わず向き合え
では、そんな“つかみどころのない”世間に対して私たちはどう向き合えばよいのか。
松下幸之助氏は、こう教えている。
「世間に対しては、謙虚さを忘れず、希望を失わず、着実に力強く歩め」
つまり、「世間を恐れず、しかし軽んじず、静かに自らを磨け」ということだ。
世間の評価は移ろう。
賞賛もあれば批判もある。
けれど、世間の声に一喜一憂して自分を見失ってはならない。
その時々の流れに振り回されず、自分の信じる道を謙虚に、希望を持って進む。
それこそが、長い目で見たときに、世間に受け入れられる人の生き方である。
「世間に問う」より「自分に問う」
私もこれまで会社を経営し、何度も「世間がどう見るか」を気にしていた。
しかし、松下氏のこの言葉によって気づかされた。
世間に問う前に、自分に問うことだと。
世間の目を恐れず、自分が正しいと思うことを実直にやり続ける。
その姿勢が、結果として世間の信頼を生む。
世間とは、あなたを評価する敵ではなく、あなたの生き方を映す“鏡”なのだ。
世間と健やかに向き合う3つの心得
1. 「世間の声」を“風”として受け止める
追い風のときは感謝し、向かい風のときは体を鍛えるチャンスとする。
2. 評価ではなく「本質」を見つめる
「何を言われたか」よりも「なぜそう言われたか」を考える。
3. 謙虚さと希望を同時に持つ
謙虚さは足元を支え、希望は前に進む力になる。
世間に流されず、世間とともに生きる
世間は、あなたの努力を見ている。
時には厳しく、時には温かく。
だからこそ、世間の波にのまれず、その波を上手に“使う”人になろう。
謙虚に、希望を持って、着実に。