困難にぶつかったときに:「時を待つ心」

「すぐに動く人」が評価される時代だからこそ
現代のビジネス社会は、とにかくスピードが求められる。
「決断が早い人が優秀」「すぐ動く人が結果を出す」と言われる風潮がある。
確かに、行動なくして成果は生まれない。
しかし、だからといって焦って動くことが、常に最善とは限らない。
状況が熟していないうちに手を打てば、せっかくの努力が無駄になることもある。
経営者であればなおさら、「待つことの苦しさ」を知っているはずだ。
動かない決断ほど、つらいものはない。
松下幸之助氏は、そんな焦りに揺れる私たちに、静かにこう語りかける。
「時を待つ心を持て」

時とは「人知を超えた力」
松下氏は「時」を、単なる時間ではなく「大自然の力」として捉えていた。
それは、人間の思惑や計画を超えた、見えない流れのようなもの。
どれほど努力しても、その“時”が来なければ、物事はうまく動かない。
しかし、時が熟した瞬間には、不思議なほど道がひらけていく。
焦りを抑え、時を待つ――それこそが経営者としての胆力であり、人間の成熟でもある。

「待つ」とは、何もしないことではない
では、「時を待つ」とは、ただじっと立ち止まっていることだろうか。
松下氏はそうではないという。
待つ間こそ、次の機会に備えて「力を蓄える時間」なのだ。
私はかつて、自社の次期社長就任を打診されたとき、すぐには受ける決心がつかなかった。
実力が足りない、自信がない――そんな思いが胸を占めていた。
今思えば、それは「まだ時が来ていなかった」からなのだ。
それからの一年半、私は経営の本をむさぼり読み、先輩経営者の話に耳を傾け、自問自答を繰り返した。
経営とは何か。
リーダーとは何を背負う存在なのか。
そして、ようやく心の準備が整ったとき、“その時”が自然と訪れた。
松下氏の言う「時を待つ心」とは、決して受け身ではない。
静かに見極め、深く考え、自らを磨く期間を持てということである。

「時の流れ」に逆らわないリーダーへ
現代社会は、常に動き続けることが善とされがちだ。
だが、本当に結果を出すリーダーは、「今は動かない方がよい」という判断ができる人である。
自然の流れを読み、潮の満ち引きを感じ取り、いざその時が来たら迷わず行動する。
焦って動くよりも、じっと力を蓄えた者が、最終的に勝利を手にする。
「時を待つ心」とは、まさに経営者の最高の武器なのだ。

焦るより、育てよ「待つ力」
動く勇気も大事だが、待つ勇気はもっと大事だ。
時が満ちれば、すべては動き出す。
その時に備えて、今日という日をどう過ごすか――そこにこそ、真の成長がある。
「焦らず、慌てず、時を信じて己を磨け」
それが、松下幸之助氏が教えてくれる「成功の本質」でもある。

「『道をひらく』(松下幸之助著)を読む52」➩

⇦「『道をひらく』(松下幸之助著)を読む50」


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