『道をひらく』(松下幸之助著)を読む48
みずから決断を下すときに:「思い悩む」
人は誰しも、思い悩む。
そして経営者も例外ではない。
むしろ、思い悩む回数は人一倍多いかもしれない。
どんなに経験を重ねても、判断に迷うときはある。
時間をかけて考えてもなお、答えが見えないこともある。
しかし、判断がつかないからといって、立ち止まるわけにはいかない。
企業は、決断によってしか前に進まないからだ。
松下幸之助氏はこう言う。
「思い悩むのは人として当然である。だが、思い悩むばかりでは道はひらけない」
悩むことを恐れてはいけない。
大切なのは、悩んだまま動けなくなることを避けることである。
思い悩んだとき、どうすればよいか
松下氏は続けてこう説く。
「素直に謙虚に、人の教えに耳を傾けよ」
自分の殻に閉じこもり、ひとりで考え続けていても、見える景色には限りがある。
だが、心を開き、真摯に他者の言葉に耳を傾けると、不思議なことに光が差す。
私自身、経営の現場で何度もその経験をしてきた。
経営者という立場は孤独である。
社内では相談できない。
外部の人間にも事情は話せない。
そんな時、私を支えてくれたのは**「書物」**だった。
夜遅くまで経営書や古典を読み漁り、そこに自分の迷いの答えを探した。
そして本の言葉が、まるで師の声のように心に響いたことが何度もあった。
「思い悩む」ことから逃げない
悩みながらも、最後に決断するのは自分だ。
すべての責任を自ら背負う覚悟で判断を下す。
ときには失敗もあった。
だが、その度に学びを得て、次の一歩を踏み出してきた。
思い悩むことは、経営者の宿命である。
だが、同時にそれは「成長の証」でもある。
逃げずに、誠実に悩み抜いた分だけ、判断力も胆力も磨かれていく。
松下幸之助氏の言葉を借りれば――
「思い悩むことを恥じるな。恥じるべきは、思い悩みながら人の教えを請わぬことだ」
思い悩む」ときの思考整理術
1.「悩みの正体」を言語化する
– 漠然と悩まず、「何を」「なぜ」迷っているかを具体的に書き出す。
2. 一人で考えすぎない
– 尊敬できる人の意見や本から、違う視点を取り入れる。
3. 決断の期限を設ける
– 無限に悩むことは避ける。一定の時間で判断する覚悟を持つ。
4. 「最悪のケース」を想定する
– 最悪を受け入れる覚悟があれば、恐れが消え、判断が澄む。
5. 最後は自分の信念で決める
– 情報も助言も大切だが、最終判断は「自分の責任」で下す。
悩みながら進む者だけが、真に成長する
経営とは、常に迷いと決断の連続である。
だが、その「迷い」こそが、経営者を鍛え、磨き、育てる。
思い悩む夜の数だけ、人は深くなり、判断に厚みが生まれる。
逃げずに悩み抜く。
それが、松下幸之助氏の教えに通じる「本物の経営者の条件」ではないだろうか。