【国の道をひらくために】:「談笑のうちに」

■議論の自由は、行動を伴ってこそ価値がある
松下幸之助氏は、戦後の日本について興味深い指摘をしています。
戦後、日本には言論の自由が広がり、人々が自由に意見を述べ、議論できる社会になりました。
これは間違いなく大きな進歩でした。
自由に語り合える社会は、健全な民主主義の土台だからです。
しかしその一方で、議論ばかりが先行し、黙々と働く気風が薄れてはいないか、そう問いかけています。
これは実に鋭い視点です。
議論すること自体は大切です。
けれども、議論が目的化してしまえば、そこから何も生まれません。
言葉を尽くすだけで手を動かさなければ、社会は一歩も前に進まないのです。

■「話し合い」だけでは物事は進まない
企業でも同じことが言えます。
会議が多い会社ほど、生産性が高いとは限りません。
むしろ、会議に追われて肝心の仕事が進まない、という例は少なくありません。
「とりあえず会議を開こう」「まずは意見交換を」、それ自体は悪くありません。
問題は、その先です。
結論が出ない、責任者が曖昧、行動に移らない、これでは、ただ時間を消費しているだけです。
松下氏が伝えたいのは明快です。
議論はほどほどにして、手を動かせ、これに尽きます。

■良い議論は、静かで速い
松下幸之助氏は、その例えとして自動車を挙げています。
性能の良い車は、静かに、なめらかに、しかも速く走る。
一方で性能の悪い車は、ガタガタと大きな音を立てるわりに、なかなか進まない。
これは組織の議論にもそのまま当てはまります。
本当に質の高い議論は、必要以上に声を荒らげることがありません。
無駄がない、感情的にならない、論点が整理されている、結論が明確である、そして何より、議論がすぐ行動につながる、これこそが「良い議論」です。

■談笑のうちに結論を導く力
松下氏が語る「談笑のうちに」とは、単に和やかな雰囲気という意味ではありません。
穏やかでありながら、本質を外さない、力まず、しかし的確に意思決定する、そうした成熟した対話のあり方を指しています。
大声を張り上げたり、相手を押し切ったりすることは、議論ではありません。
それはただの感情のぶつけ合いです。
本当に優れた組織ほど、静かです。
互いを尊重しながら意見を交わし、必要な結論を素早く導き、その後は黙々と実行に移る、この流れができている組織は強い。

■わが社が大切にしてきたこと
振り返ってみると、私たちの会社でも、会議は必要最小限にしてきました。
特に現在はリモートワークが中心となっているため、朝礼や終礼は時間通りに行いますが、それ以外の打ち合わせは必要に応じて随時実施する形です。
そして何より意識しているのは、短く、明確に終えること。
オンライン会議の利点はここにあります。
時間が来たらすぐ始められる、終わればすぐ仕事に戻れる、移動も待機も不要です。
以前のように、会議室に集まり、開始まで時間をつぶし、終わったあともしばらく雑談が続く、そんな非効率はありません。
結果として、会議の頻度は増えても、全体の生産性はむしろ上がりました。

■議論は仕事のためにある
大切なのは、議論そのものを評価しないことです。
会議をたくさん開いたから良い、活発に発言が飛び交ったから良い、そんなものは自己満足にすぎません。
評価されるべきなのは、その議論が何を生み出したかです。
仕事につながったか、改善につながったか、成果につながったか、そこに答えがなければ、その議論に価値はありません。

■語り合い、その後は黙々と働く
松下幸之助氏の教えは、非常にシンプルです。
穏やかに語り合う、冷静に結論を出す、そして黙々と働く、この順序を守ること。
議論に熱中して行動を忘れてはならない、行動ばかりで対話を軽んじてもならない、その絶妙なバランスの中に、組織の発展があります。
これからの時代、ますます効率的な対話の力が問われます。
「談笑のうちに」本質を語り合い、静かに決断し、力強く実行する、そんな成熟した社会と組織を、私たちは目指していきたいものです。

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